ハードな質問
池上六朗さんの講演
2008年6月7日(土)の神戸女学院シンポジウム「身体の言い分」で気になったこと言葉をもうひとつ。基調講演をされた池上六朗さんのお話から。
(池上六朗さんが主宰される「三軸修正法」HP:http://www.sanjiku.com/)
私は施術する前、
患者さんに「この痛みが治まったら何がしたいですか?」と必ず訊ねます。
そして、患者さんがしたいことをしている姿を想像しながら施術します。
そうするととても効果があります。
患者さんは痛くなくなると、
「先生、この正しい姿勢(状態)を保つにはどうしたらいいですか?」とよく訊ねられます。
でも、正しい状態を『保つ』ことばかりを考えるんじゃなくて、
正しい状態でなくなった(=痛みが出る)時にどうしたらいいか?
を知っておく方が大切だと思いますね。
FI(個人レッスン)での質問
このお話を聞いて、フェルデンクライスの個人レッスン(FI:機能的統合)でインタビューを思い出しました。
What would you like to do?
あなたは何をしたいですか?
FIレッスンを受ける度にこの質問をされ、私は毎回「う〜ん…」と答えに詰まっています。必ず質問されることが分かっているので、皆あらかじめ「答え」を準備していきます。ところが、いざインタビューが始まるとプラクティショナーの問いとクライアントの答えがかみ合わないのです。そこで更に「う〜ん…」となるのです。
フェルデンクライス・メソッドは「スポーツや演奏・舞踊のパフォーマンスを高める」と紹介されることも多く、そうした場合、例の質問 What would you like to do?
に対して
- (回が進むと制球が悪くなるので)コントロールを良くしたい
- (長い楽曲を演奏するので)最後までらくに楽器を演奏したい
- (軸足でない方の脚で回転するシーンがあるので)もっと安定して回転したい
といった具体的な答えが出てきます。
ところが、私達の場合
- 「腰が痛いのです」
- 「こういう風に動くと肩が痛みます」
- 「呼吸が浅いのかいつも息苦しい感じがあります」
…と、自分たちの身体の現状を答える(正確には「訴える」)ことが多いのです。
質問の共通点
池上六朗さんは治療家なので『この痛みが治まったら…』で始まる質問になり、「治療ではない」フェルデンクライス・メソッドでは“ What would you like to do? ”『あなたは何をしたいですか?』と直接的に訊くことになります。どちらにも共通しているのが、
あなた(患者・クライアント)がこの施術(レッスン)の主役である、という治療家(プラクティショナー)のスタンスだと思います。
- 「この痛みを治してください」と治療家に下駄を預ける、
- 「制球が良くなるようにしてください」とプラクティショナーに下駄を預ける
のではないのですよ、とはっきりさせるための大切な言葉であり、
- 「あなた作る人、わたし食べる人」
- 「あなた治療する人、わたし治してもらう人」
- 「あなた指導する人、わたしパフォーマンス力上げてもらう人」
ではなく、「あなたに受け身でいてもらうのとは違うのですよ。勘違いしないでくださいね。あなた自身が変わるんですよ。」と、患者・クライアント自身の意識・考え方・行動の変化を前提に治療やレッスンが進むことを予告する質問なのだと思います。
ヒナ鳥が大きく口を開けて、親鳥からエサを口に運んでもらうように、薬や施術・指導を待つ患者・クライアントの姿勢を否定するという点で、どちらもハードな質問だと思います。
同時に、池上六朗さんの治療所を訪れる人に、スポーツマン・演奏家・ダンサー・武術家が多いらしいこともうなずけます。
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